Days of "dancin' in the vein"
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実家にいた。
二階の自室のベッドに寝転がって本なぞよんでいたが、
夜も更けたのでそろそろ寝ようと思い、
その前にトイレに行こうと立ち上がった。
階下では、兄が風呂に入っている音がしている。
兄はいつでも深夜に風呂に入る。
階段を降りようとしたら、
1階の居間で寝ている母が出て来て、ちょうどトイレに行こうとしていた。
降りてくる私に気づくと、「先に使こてええよ」と言う。
居間からは煌々と灯りが漏れている。
いつも二階で寝ている父もなぜか起きていて階下にいる。
台所へ行くと、洗濯機が置いてある裏庭の部分に、
四畳半程度の小さな部屋がいくつも縦に並んで奥まで続いている。
部屋と部屋の間には襖があるがすべて明け放されているので、
まるで廊下のようだ。
それぞれの部屋には布団がひと組づつ敷いてあるが、人の気配はない。
居間の母が「もちのかみ」の話を始める。
どうやら落語の筋らしい。
怪談だが、ユーモラスな落ちがある話だ。
母の話す声を聞きながら私は、
廊下のように連なる四畳半の部屋を奥へ奥へと進む。
6~7部屋は過ぎたあたりで、ようやく突き当たりが見えた。
最後の部屋は、うすい襖で閉ざされている。
襖には、鳥獣戯画めいた落書きのような絵が描かれていて、
その脇に文字も添えられている。
それを左右に開くと、すぐまた同じように薄い襖があって、
やはり同じような絵と文字が描かれていた。
さらに開くとやはり襖。絵と文字。
まるで絵本の頁をめくるように、襖を開けると続きが読める仕掛けらしい。
そうか、これが母の話している「もちのかみ」の話か。
3枚ほど襖を開けて、さらに手をかけようとしたら、
何かに弾かれたように、私は突然ふっとばされた。
きれいに、後ろむきにでんぐりがえりをしてしまう。
部屋の中には布団が引いてあるので、どこも痛くはなかった。
ずっと後ろのほうになった居間で、母が笑っている。
「それが“もちのかみ”や」
どうやら私は話のオチを、実演したらしい。
しばらく呆然としていたが、気を取り直して、最後の襖を開けた。
するとようやくガラスの引戸が現れて、縁側らしきものが見える。
ガラス戸を開けると、ちょうど向側に、同じような縁側があって、
浴衣を着た若い母親と、幼い子供が二人、そこで涼んでいた。
目が合う。
でんぐりがえりをしたばかりの私の髪はボサボサで、
着ていた着物も乱れていた。
しかも時間は深夜だ。
私は慌てて自分の様子を取り繕い、怪しまれないようにと愛想よく会釈した。
裏の家には狂女が住んでいるなどと噂になってはたまらない。
二人いた子供の小さいほうが、ニコニコと笑いかけてくる。
私はやはり愛想よく笑みをかえし、
ちょっと深夜に目が覚めて縁側に涼みに出たけどもう寝ようかなというふりをして、
襖を閉め自室に戻った。
子供の頃、極端に怖がりだった私は、夜に一人で二階に上がることができなかった。
兄か母についてきてもらわなくては、自分の部屋にすら入れなかった。
今は大人だから、1人で真夜中でも起きていられる。
だがもし、怖いと思ったら、母を呼びにいき、その膝にすがるだろう。
四十を越えて、まだ母親に甘えようとしている。
「母は強し」という言葉が浮んだ。
きっと私が独身で、子供がいないのがいけないのだろう。
守るべき子供がいれば、己れの感じる恐怖より、
怯える子供を守らなければという強さが勝るはずだ。
私にはそれがいないから、いつまでも子供のように誰かに甘えようとする。
階段を、父が二階に上がってくる足音がした。
自分の部屋のドアを開きっぱなしだったことを思い出し、慌てて閉めた。
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