Days of "dancin' in the vein"
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その川は海へ流れ込むのではなく、海を源泉として町に流れ込んでいるのだった。
町は海より低い位置にあり、滝のように入江から海は川へと注ぎ込んでいる。
ごうごうと勢いよく流れる川は、町の中ほどで直角に曲がる。
その手前に大きなコンクリートの橋がかかっている。
川の神はいつも生贄を欲していた。今年になって、すでに4人の子供や大人が川の神に捧げられた。
けれどそれらは、川の欲しているものとは違うらしい。
氾濫の収まらない川に、いくら生贄を投げ込んでも、川は荒れるのをやめようとしない。
この日も、川に一人の少女が投げ込まれた。
けれど違うのだ。川が欲しているのは彼女ではない。
川は荒れる。濁流に飲まれ下流へ流れてゆく少女を、彼女の家族が助けに飛び込んだ。
贄は彼女ではない。死ぬだけ無駄だ。
気づいた人々が、直角に曲がった川の下流から大量に飛び込み、少女を助けようとした。
川は、飛び込んだ何百人もの人間で水面が見えないほど溢れた。
俺はその光景を橋の上から眺め、そしてとぼとぼと部屋に戻った。
俺にはわかっていた。俺が死ななくては、川の氾濫はおさまらないのだ。
俺はバンドをやっていて、バンドのメンバー4人と一つの部屋で暮らしている。
部屋に戻り、トイレを済ませたら、俺は川へ飛び込もうと決心していた。
それなのに、部屋のトイレには、メンバーの一人が入っていて出てこない。
白い壁の洗面所は、アート好きのメンバーによって蛍光グリーンのペンで装飾が施されており、
それはとても美しかった。
俺はしばらくそれを眺め、あきらめて部屋に戻る。
奥の寝室には、二人のメンバーがこもっている。彼らは恋人同士だ。
残る一人のメンバーを、俺は呼び寄せた。
俺は今日限りでバンドをやめる、と俺は小さな声で彼に言った。
自分が死ななくては川はおさまらないのだということは言えなかった。
ただ、もうバンドをやめると言った。
彼は悲しそうな顔をした。
彼ならきっと、俺が川の贄になって死んだと知って、悲しい顔をしてくれるだろう。
そのことに少しだけ救われた。
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